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ジヒドロテストステロン(DHT)とは?基本的な役割やAGAとの関係、抑制方法などを解説

ジヒドロテストステロン(DHT)は男性ホルモンの一種で、男性の薄毛(AGA)を引き起こす物質としてよく知られています。薄毛だけでなく、前立腺肥大症や前立腺がん、にきびなどの原因でもあることから、「悪玉男性ホルモン」と呼ばれることがあります。

しかし、DHTは男性の身体の発達や健康の維持に欠かせない物質であり、一概に「悪玉」と決めつけることはできません。

ネット上にはDHTに関する情報があふれていますが、代表的な男性ホルモンである「テストステロン」とごっちゃにしていたり、医学的な根拠のない「DHT抑制方法」を紹介したりしている記事が多いです。

この記事では、信頼性の高い資料に基づき、DHTの基本的な役割やAGAとの関係についてくわしく解説し、それに基づいて本当に効果的な抑制方法を紹介します。

目次

ジヒドロテストステロン(DHT)の基本的な役割

ジヒドロテストステロン(DHT)やテストステロンは、「男性ホルモン」の一種です。DHTとAGAの関係を理解するには、DHTの「ホルモン」としての働きや、テストステロンとの違いを少し知っておく必要があります。

ここではまず、DHTが「ホルモン」として体内でどのような働きをしているのか、わかりやすくかみ砕いて解説します。

ジヒドロテストステロン(DHT)の基本的な役割
  • DHTは男性ホルモンの一種で、5α還元酵素の作用でテストステロンから合成される
  • 男性ホルモンは「男性ホルモン受容体」と結合して働く(ホルモン=鍵、受容体=鍵穴)
  • DHTの働きは出生前~思春期の男性の発達に欠かせない
  • 成人男性の身体では目立った役割がない

DHTは男性ホルモンの一種で、5α還元酵素の作用でテストステロンから合成される

男性ホルモンにはさまざまな種類があり、そのなかでとくに目立った働きをしているのが、テストステロンとDHTです。

テストステロンは精巣(睾丸)で作られ、血流によって全身に運ばれます。皮膚や筋肉、臓器などの組織に運ばれたテストステロンの一部は、各組織にある5α還元酵素の作用を受けて、DHTに変換されます。

DHTのほとんどはこのようにしてテストステロンから作られ、各組織に特有の反応を引き起こします。

DHT(ジヒドロテストステロン)という名称は、「ジヒドロ+テストステロン」と分解され、「水素原子が2つ付け加わったテストステロン」を意味します。カタカナだと長くて覚えづらいためか、「ジヒドロテストロン」「ジヒデロテストステロン」「ジビテストステロン」といった誤記がよく見られます。

男性ホルモンは「男性ホルモン受容体」と結合して働く(ホルモン=鍵、受容体=鍵穴)

体内にはさまざまな種類のホルモンが存在し、各組織の細胞の中には特定のホルモンと結合する「受容体」が存在しています。ホルモンと受容体は「鍵と鍵穴」の関係に似ていて、ちょうど形が合う相手とだけ結合し、形が合わない相手とは結合しません。そして、両者がしっかり結合すればするほど、活発な反応が引き起こされます。

テストステロンやDHTは「男性ホルモン受容体」と結合するようにできていますが、DHTのほうが鍵穴にぴったり合う形をしているため、テストステロンよりもしっかりと受容体に結合し、より強力な反応を引き起こします。

DHTの働きは出生前~思春期の男性の発達に欠かせない

DHTは男性の体を男性らしく発達させるのに欠かせない物質で、出生前から思春期にかけてとくに重要な働きをします。

DHTの働き
  • 出生前(胎児期):性器(ペニス・陰嚢・前立腺)の発生
  • 思春期:性器の発達、体毛(ひげ・陰毛・すね毛など)の発生

参考:Biochemistry, Dihydrotestosterone|National Library of Medicine

人間の胎児は最初はみな「男女共通の体」をしています。男性の遺伝子を持つ胎児は、一定の時期にテストステロンやDHTの作用を受けて、「男性の体」へと変化します。出生後は、思春期に再び男性ホルモンが活発化し、その影響で「大人の男性の体」へとさらに変化していきます。

一方、女性の遺伝子を持つ胎児は男性ホルモンの作用を受けずに育ち、「女性の体」を持って生まれてきます(女性の体内にも少量の男性ホルモンは存在し、さまざまな機能を果たしています)。

男性の遺伝子を持つ胎児が十分にDHTの作用を受けずに育った場合、男性器が正常に発生せず、中間的・両性的な性器を持って生まれてくる可能性があります(性分化疾患)。遺伝的に5α還元酵素がうまく機能しない場合などに起こります。

成人男性の身体では目立った役割がない

成人後もDHTは作られ続け、体内のさまざまな反応に関わりますが、通常はあまり目立った働きはしません。成人の体でDHTが目立つ存在となるのは、AGAなどの病気を引き起こす場合です。

ジヒドロテストステロン(DHT)とテストステロンの違い

DHTとテストステロンは働き方が大きく異なります。両者を混同して、DHTの影響を過大視したり、DHTの抑制方法に関して誤った情報を発信したりしているメディアが多いので、注意が必要です。

ここでは、誤解されやすいポイントに注意しながら、DHTとテストステロンの違いを明快にまとめます。

ジヒドロテストステロン(DHT)とテストステロンの違い
  • 作用の範囲|テストステロンは血流を通して全身に働きかけ、DHTは組織内で限定的に作用する
  • 作用の強さ|DHTのほうが強力(テストステロンとのバランスが重要)
  • テストステロンが多い人の特徴|性欲・積極性が高い、筋肥大しやすい、若はげになりやすい
  • 成人男性においてはDHTが多くてもメリットはなく、むしろ病気の原因になる

作用の範囲|テストステロンは血流を通して全身に働きかけ、DHTは組織内で限定的に作用する

精巣(睾丸)で作られたテストステロンは血流によって全身に運ばれ、広範囲にさまざまな影響を及ぼします。一方、DHTは各組織の中でテストステロンから合成され、主にその組織の内部でだけ作用を発揮します。

肝臓などで作られたDHTが血管の中にも少し入り込みますが、血液中に存在するDHTの量はテストステロンの量の10分の1程度しかありません。血流に乗って各組織に運ばれてくるDHTの影響は、組織の中で作られるDHTの影響よりはるかに小さい場合が多いです。

とくに、皮膚や前立腺では組織内のDHT量は血液中のDHT量とは無関係に調整されており、血液中のDHTがAGAや前立腺肥大症に影響を与えることはないと考えられています。

参考:Is Dihydrotestosterone a Classic Hormone?|Oxford Academic

作用の強さ|DHTのほうが強力(テストステロンとのバランスが重要)

テストステロンよりもDHTのほうが男性ホルモン受容体と結合しやすい形をしており、結合しやすさは約4倍です。受容体と結合し続ける時間もテストステロンより3倍長く、DHTと受容体の結合により受容体自体が増加するという現象も起こります。

こうしたことから、DHTの男性ホルモンとしての作用はテストステロンよりもはるかに強力です。ただし、先ほど説明したとおり作用範囲は限定されます。

参考:Dihydrotestosterone: Biochemistry, Physiology, and Clinical Implications of Elevated Blood Levels|National Library of Medicine

体内では多種多様な反応が複雑に絡み合って起きており、作用の強い男性ホルモン(DHT)が主体となる場面もあれば、通常の強さの男性ホルモン(テストステロン)が主体となる場面もあります。DHTとテストステロンのバランスが適切に保たれることが、健康の維持にとって重要です。

テストステロンが多い人の特徴|性欲・積極性が高い、筋肥大しやすい、若はげになりやすい

血液中のテストステロンは心身のさまざまな側面に影響を及ぼします。

血液中のテストステロン量が多い男性は、そうでない男性に比べて、以下のような特徴を持つ傾向があります。

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身体的特徴精神的特徴
性欲や勃起力が高い
骨密度が高い
体内でのタンパク質合成が盛んで、筋肉が増えやすい
若いうちにAGAを発症しやすい(※頭皮がAGAになりやすい遺伝的傾向を持つ場合)
成功や勝利を求めて積極的に(リスクを取って)行動しようとする傾向が強い
状況に対して攻撃的に反応する傾向が強い
不安にとらわれにくく、不安症やパニック障害になりにくい
気分の落ち込みから回復しやすく、重いうつ状態にはなりにくい

参考:Impact of Testosterone on Male Health: A Systematic Review|National Library of Medicine
参考:Factors associated with early-onset androgenetic alopecia: A scoping review|National Library of Medicine
参考:Testosterone, mood, behaviour and quality of life|Wiley

AGAについては、血中テストステロン量よりも頭皮の遺伝的傾向のほうが大きく影響します(くわしくは後述)。遺伝的に頭皮がAGAを発症しやすい性質を持っている場合、血中テストステロン量が多いほど発症が早まる傾向があります。

通例、男性の血中テストステロン量は20代でピークに達し、30代半ば頃から少しずつ減少していきます。減少スピードには大きな個人差があります。加齢によるテストステロン減少は男性の身体的特徴や行動の傾向に影響を及ぼし、肥満、ED、性欲・意欲の減少、集中力低下などの問題を引き起こします。

参考:男性更年期障害(加齢性腺機能低下症、LOH症候群)|日本内分泌学会

成人男性においてはDHTが多くてもメリットはなく、むしろ病気の原因になる

血液中のDHTも一種の男性ホルモンなので、男性の心身にテストステロンと同様の影響を及ぼしている可能性が考えられます。

しかし今のところ、「血液中のDHTが多い人は○○の特徴を持つ」といった明確な傾向は見つかっていません。基本的に、皮膚や臓器などの組織内で合成されるDHT量のほうがはるかに重要で、その量は血液中のDHT量とは無関係であることが多いです。

この点を誤解し、血液中のDHTがテストステロンと同様の影響を及ぼすかのように説明しているメディアが多いです。

一方、各組織の中で作られるDHTが通常よりも増えると、以下のような病気や症状を引き起こす恐れがあることが知られています。

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DHTが増える場所引き起こされる病気・症状
頭皮の毛包AGA(男性型脱毛症)
前立腺前立腺肥大症・前立腺がん
皮膚の皮脂腺にきび 

参考:Biochemistry, Dihydrotestosterone|National Library of Medicine
参考:Adult acne versus adolescent acne: a narrative review with a focus on epidemiology to treatment|ScienceDirect

ジヒドロテストステロン(DHT)と男性の薄毛(AGA)の関係

ここでは、AGAの発症メカニズムやDHTとの関係についてまとめます。

ジヒドロテストステロン(DHT)と男性の薄毛(AGA)の関係
  • AGAは「髪の毛が軟毛化し、生え替わりが滞る」病気で、毛包の萎縮が原因
  • DHTが毛包の男性ホルモン受容体に強く結合し、毛包を萎縮させる反応を引き起こす
  • AGAの頭皮では健康な頭皮よりもDHTが多い
  • 遺伝的に男性ホルモン受容体が作られやすい体質を持つ人は、DHTの作用を強く受ける
  • 血液中のDHTはAGAにあまり影響しない(テストステロンは若はげに関係する)

AGAは「髪の毛が軟毛化し、生え替わりが滞る」病気で、毛包の萎縮が原因

「AGAは抜け毛が増える病気」と思われている方が多いかもしれませんが、実際には抜け毛が増えるわけではなく、「毛が育ちにくくなり、生え替わりが滞る」病気です。

毛は毛穴の中にある毛包という組織から生えてきますが、AGAの頭皮では毛包が少しずつ萎縮(ミニチュア化)していき、細くて短い毛(軟毛)しか生えなくなっていきます。最悪の場合、頭皮の上まで毛が伸びてこず、見た目にはまったく毛がない状態になります。

毛は「生える→成長する→成長が止まる→抜ける→また生える」というサイクルを繰り返しています。毛包が萎縮すると、「成長が止まっている期間」や「毛が抜けたままの期間」が長期化し、新しい毛がなかなか生えてこなくなります。

DHTが毛包の男性ホルモン受容体に強く結合し、毛包を萎縮させる反応を引き起こす

毛包の萎縮は、毛包内の男性ホルモン受容体に男性ホルモンが結合することで引き起こされます。一つひとつの結合の影響は小さいですが、多数の結合が積み重なることで、毛包が次第に萎縮していきます。

テストステロンも受容体に結合することがありますが、DHTのほうが結合しやすく、はるかに強い反応を引き起こします。AGAの引き金となるのは、主にDHTです。

AGAの頭皮では健康な頭皮よりもはDHTが多い

AGAの頭皮では5α還元酵素が活発に働き、テストステロンからDHTへの変換が盛んに行われます。

頭皮のなかでも、とくに前頭部(前髪周辺)と頭頂部(つむじ周辺)でDHTが作られやすく、「前頭部の生え際が徐々に後退する」「つむじ付近から薄毛が円状に広がっていく」というパターンでAGAが進行していきます。

遺伝的に男性ホルモン受容体が作られやすい体質を持つ人は、DHTの作用を強く受ける

AGAの頭皮では、男性ホルモン受容体の数が増え、DHTに対する感受性(反応の強さ)も高まります。これにより、DHTとの結合が増加し、毛包萎縮の反応が増幅されます。

AGAは遺伝率が極めて高く(80%程度)、遺伝的体質をベースにして発症すると考えられています。AGAの頭皮で男性ホルモン受容体の数や感受性が増すのは、男性ホルモン受容体の遺伝子の個人差が原因であることが判明しています。

参考:Androgenetic Alopecia in Men: An Update On Genetics|Indian Journal of Dermatology

それ以外にも、AGAに関係すると推測される多数の遺伝子が見つかっており、AGAの遺伝子研究が盛んに進められています。近い将来にはAGAの遺伝子治療が行われるようになるかもしれません。

血液中のDHTはAGAに影響しない(テストステロンは若はげに関係する)

血液中のDHTの量とAGAの関係についてさまざまな研究が行われてきましたが、明確な関係は見つかっていません。AGAの主な要因は「頭皮の毛包でDHT合成が増えること」「男性ホルモン受容体の数・感受性が増強されること」にあり、血液中のDHTは基本的にAGAの発症・進行には影響しないという考えが一般的です。

参考:Is Dihydrotestosterone a Classic Hormone?|Oxford Academic

一方、血液中のテストステロン量は若はげ(早発型AGA)と関係があります。遺伝的にDHTや男性ホルモン受容体が作られやすい頭皮を持つ人は、テストステロン量が通常レベルでもいつかはAGAを発症する可能性が高いですが、テストステロンが通常レベルよりも多いと、発症年齢が早まる傾向があります。

参考:Factors associated with early-onset androgenetic alopecia: A scoping review|National Library of Medicine

AGAでジヒドロテストステロン(DHT)が増える原因

AGAの頭皮でDHTが増える原因はよくわかっていません。以下のような原因が提案されていますが、まだ定説には至っていないようです。

AGAでジヒドロテストステロン(DHT)が増える原因
  • 遺伝的体質により毛包の5α還元酵素が増え、テストステロンからDHTへの変換が促進される
  • 毛包内には(5α還元酵素の働きとは反対に)DHTを別の物質に変換して不活性化する分子も存在するが、加齢とともにその分子が作られにくくなり、結果としてDHTが増える

参考:Hormonal regulation in male androgenetic alopecia—Sex hormones and beyond: Evidence from recent genetic studies|Wiley
参考:ヒト頭皮脂腺においてジヒドロテストステロン不活化酵素の発現は加齢に伴い低下する|滋賀医科大学

一般的に、年齢とともにAGAが発症しやすくなり、薄毛の進行度が高くなる傾向がありますが、Bの説だとこうした加齢の影響をうまく説明できます。A・B両方の原因がAGAに関係している可能性もあります。

ジヒドロテストステロン(DHT)を減らす方法

AGAは自然に治ることはなく、何らかの方法でDHTを抑制しないと、時間とともに薄毛が進行する可能性が高いです。内服薬を使ってDHTを抑制する方法が、AGAの標準的な治療法として確立しています。メディアではそれ以外の抑制方法もいろいろと紹介されていますが、ある程度効果が期待できるものもあれば、まったく期待できないものもあります。

ジヒドロテストステロン(DHT)を減らす方法
  • 医学的に効果が確かめられているのは「治療薬で5α還元酵素の働きを抑える」方法
  • フィナステリド内服薬|5α還元酵素「Ⅱ型」の働きを抑える
  • デュタステリド内服薬|5α還元酵素「Ⅰ型」「Ⅱ型」の働きを抑える
  • 治療薬は早期に開始したほうが薄毛の改善率が高い
  • ノコギリヤシや緑茶などの抽出物(サプリ)でDHTを抑えられるとする研究もある(ただし医学的証拠はまだ不十分)
  • DHTを便や汗の排出や運動で減らすのは非現実的

医学的に効果が確かめられているのは「治療薬で5α還元酵素の働きを抑える」方法

DHTは5α還元酵素の働きでテストステロンから合成されるので、5α還元酵素の働きを抑えれば、DHTが作られにくくなります。すでに存在しているDHTは時間とともに別の物質に変換され、最終的に尿の中に放出されるので、5α還元酵素の働き(DHT合成)を抑制し続ければ、次第にDHTが減っていきます。

5α還元酵素の働きを抑える「5α還元酵素阻害薬」がいくつか開発され、医学的に効果や安全性が確認された上で、AGAや前立腺肥大症の治療薬として世界中で利用されています。

フィナステリド内服薬|5α還元酵素「Ⅱ型」の働きを抑える

フィナステリド(先発品名「プロペシア」)は、最初に開発された5α還元酵素阻害薬です。

DHT合成に関わる5α還元酵素には2つのタイプ(Ⅰ型・Ⅱ型)があります。頭皮の毛包には主に「Ⅱ型」、周辺の関連組織には主に「Ⅰ型」が分布しており、AGAへの影響は「Ⅱ型」のほうが大きいとされています。フィナステリドは5α還元酵素「Ⅱ型」の働きを抑えて、DHTを作られにくくします。

参考:Androgenetic Alopecia|National Library of Medicine

フィナステリドの服用により、毛包の萎縮が抑制され、薄毛が進行しにくくなります(AGA進行遅延効果)。

効果を実感するまでに、通常6ヶ月程度は服用を続ける必要があります。服用をやめると5α還元酵素の働きが復活し、再び薄毛が進行し始めます。DHTを抑え続けるには、ずっと服用を継続する必要があります。

参考:医療用医薬品 : フィナステリド|KEGGデータベース  

フィナステリドは「AGA進行遅延薬」として承認されていますが、服用により毛包が萎縮状態から回復し、薄毛が改善する(軟毛化していた毛が太い毛に戻る)場合もあります。

参考:男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン(2017年度版)|日本皮膚科学会  

デュタステリド内服薬|5α還元酵素「Ⅰ型」「Ⅱ型」の働きを抑える

デュタステリド(先発品名「ザガーロ」)は、5α還元酵素の「Ⅰ型」「Ⅱ型」両方の働きを抑える薬です。

参考:医療用医薬品 : デュタステリド|KEGGデータベース

フィナステリドと同じく、AGA進行遅延効果や薄毛改善効果が期待でき、効果を実感するまでに通例6ヶ月程度かかり、服用をやめると効果が失われます。

デュタステリドは「Ⅰ型」にも効くので、フィナステリドよりも高い効果が期待できます。ただし、AGAに影響するのは主に「Ⅱ型」のほうなので、効き目の差は大きくありません。効き目の差が感じられない方もいます。

治療薬は早期に開始したほうが薄毛の改善率が高い

フィナステリドやデュタステリドは、AGAがあまり進行しないうちに服用を開始したほうが、改善率が高くなる傾向があります。

日本人男性523名がフィナステリドを10年間服用し続けた結果を追跡した研究では、以下のような結果が出ています。薄毛の進行度は下記の「ハミルトン・ノーウッド分類」によるものです。

「ハミルトン・ノーウッド分類」
  • 進行度Ⅰで開始した人は、10年にわたって改善傾向が続いた 
  • 進行度Ⅱ~Ⅲで開始した人は、最初の5年ほど改善傾向が続き、その後はほぼ横ばい 
  • 進行度Ⅳで開始した人は、最初の2年ほど改善傾向が続き、その後はほぼ横ばい~若干悪化 
  • 進行度Ⅴ~Ⅵで開始した人は、最初の1年は改善したが、その後は少しずつ悪化 

これによると、進行度Ⅰで開始するのが理想ですが、進行度Ⅱ・Ⅲでもかなりの改善が期待できます。進行度Ⅳになると効果がかなり限定されてしまい、進行度V以降ではあまり効果が期待できません。

■ハミルトン・ノーウッド分類の概要

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進行度(ステージ)状態
前頭部(前髪周辺)の生え際がほんの少し後退(ほとんど目立たず、自覚がないケースが多い)
前頭部の生え際が少し後退し、軽いM字型になる(まだ自覚しない人もいる)
前頭部の生え際がさらに後退し、M字の切れ込みが深くなる人によっては頭頂部(つむじ周辺)が薄くなり始める
前頭部の生え際の先端が頭のてっぺんに達する頭頂部の薄毛がはっきりする
前頭部と頭頂部の薄毛が広範囲に広がる
前頭部から頭頂部にかけて全体的に薄い状態(前頭部と頭頂部の髪の境目はかろうじて残っている)
前頭部から頭頂部にかけて全体的にはげた状態

フィナステリドやデュタステリドの働きはAGA進行遅延効果が中心で、薄毛改善の効果は限定的です。すでにある程度薄毛が進行している方(ハミルトン・ノーウッド分類でⅡ以降の方)は、発毛薬のミノキシジルを併用するのがおすすめです。

ノコギリヤシや緑茶などの抽出物(サプリ)でDHTを抑えられるとする研究もある(ただし医学的証拠はまだ不十分)

薄毛の改善に効果があるとされる植物由来サプリが多数販売されています。以下のような成分を含むサプリにはDHT抑制効果があるとする研究もあります。

ノコギリヤシや緑茶などの抽出物(サプリ)でDHTを抑えられるとする研究もある(ただし医学的証拠はまだ不十分)

ただし、そうした研究の多くは小規模で、統計データの効力が弱く、偶然や先入観の影響が大きい可能性があります。サプリのDHT抑制効果については研究がまだ不足しており、効果の有無を医学的にはっきりと判断するのは難しい状況です。

試してみる価値はあるでしょうが、何年も試しているうちにAGAが進行してしまうリスクもあります。サプリはあくまで補助として、治療薬と併用する形で活用するのがおすすめです。

DHTを汗・尿の排出や運動で減らすのは非現実的

「DHTは汗や尿に排出されるので汗・尿をたくさん出せばDHTを減らせる」という情報がさまざまなメディアで紹介されていますが、これは誤解です。

DHTは体内でさまざまな化学反応(代謝)を経て別の物質に変換され、最終的に尿の中に排出されます。大量の水分や利尿作用のある飲み物(お茶・アルコールなど)を摂取して尿を増やしても、DHTの代謝には影響がなく、尿の中に排出されるDHTの量はとくに変化しません。

汗にはDHTがほとんど含まれておらず、汗からの排出はごく微量です。また、汗をたくさんかいてもDHTの代謝がとくに盛んになることはありません。

運動して汗をかいてもDHTは減りませんが、定期的な運動が頭皮の血行改善や心身のストレス軽減、よい眠りをもたらし、AGAの進行遅延につながるとする研究があります。運動そのものは有意義であると思われます。

参考:Lifestyle factors affecting the pathogenesis of androgenetic alopecia: a literature review|frontiers

ジヒドロテストステロン(DHT)に関してよくある質問

最後に、DHTに関してよくある質問をいくつか取り上げて解説します。

よくある質問
  • DHTを減らすと性欲が下がったりEDになったりする?
  • DHTは体の匂いに影響する?
  • 血液検査でDHTを測ればAGAになりやすいかわかる?
  • 女性の薄毛(FPHL)とDHTの関係は?
  • 筋トレするとDHTが増えてはげる?それとも抜け毛が減る?

DHTを減らすと性欲が下がったりEDになったりする?

フィナステリドやデュタステリドで性欲低下やEDの副作用を経験する方もいます。ただし、因果関係には不明な点があります。

AGA治療用のフィナステリドやデュタステリドで、数%程度の人が男性機能低下(性欲低下・ED・射精困難)の副作用を経験するとされています。

DHTの抑制が原因で男性機能低下が引き起こされている可能性はありますが、以下のような研究結果から、心理的な影響や別の病気の影響のほうが大きいと考える研究者が多いようです。

DHTを減らすと性欲が下がったりEDになったりする?
  • 男性機能低下の副作用について説明してから処方すると、説明せずに処方した場合よりもはるかに高い確率で、男性機能低下の副作用が経験される
  • 本物の薬を投与したグループと、偽薬(見た目や味は同じで薬効成分が入っていない錠剤)を投与したグループを比較したところ、男性機能低下の発生率は変わらなかった(偽薬のグループのほうが発生率が高かったケースもある)
  • 肥満・ニコチン依存症・糖尿病・高血圧・気分障害・不安障害の人を除くと、男性機能低下の発生率は薬を服用していない人と変わらない

参考:Finasteride and Dutasteride for the Treatment of Male Androgenetic Alopecia: A Review of Efficacy and Reproductive Adverse Effects|Georgetown Medical Review
参考:Sexual dysfunction with 5-alpha-reductase inhibitor therapy for androgenetic alopecia: A global propensity score matched retrospective cohort study|JAAD

DHTは体の匂いに影響する?

DHTと体臭の関係は不明です。血液中のテストステロンは体臭に影響することがわかっています。

体臭は、皮膚のアポクリン汗腺から分泌される物質と皮膚表面の常在菌の働きで発生します。アポクリン汗腺には5α還元酵素(Ⅰ型)が存在し、それによって合成されるDHTがアポクリン汗腺の働きに何らかの影響を与えていると考えられます。しかし、DHTと体臭の関係はまだよくわかっていません。

参考:Predominance of type I 5alpha-reductase in apocrine sweat glands of patients with excessive or abnormal odour derived from apocrine sweat (osmidrosis)|National Library of Medicine

アポクリン汗腺は、思春期に増加するテストステロンの働きにより、エクリン汗腺から作られます。

血流に乗って体内を巡るテストステロンの量は、男性の体臭に微妙な影響を与えているようです。2025年に、74名の男性が着用したTシャツの匂いを797名の男女(ほぼ半々)に評価してもらうという興味深い実験が行われ、以下のような結果となりました。

DHTは体の匂いに影響する?
  • テストステロンの量が多いほど匂いが強い傾向がある
  • いい匂いと感じられるかどうかは、テストステロンの量と関係がない
  • テストステロンの量が多い男性のTシャツの匂いからは、「支配欲が強い男性」「積極的(強気・攻撃的)な行動傾向のある男性」という印象を受ける人が多かった

参考:The role of testosterone in odor-based perceptions of social status|ScienceDirect 

血液検査でDHTを測ればAGAになりやすいかわかる?

血液中のDHTの量をもとにしてAGAの発症しやすさを診断するのは難しいようです。

これに関して、ある研究では以下のような結果が出ています。

血液検査でDHTを測ればAGAになりやすいかわかる?
  • AGA男性のなかには、DHTの血中濃度が通常より高い人もいれば、通常レベルの人もいる
  • 健康で、AGAを発症していない男性のなかにも、DHTの血中濃度が通常より高い人が少なからずいる
  • DHTの血中濃度とAGAの進行度の間には関連性が見られない

参考:Assessment of the usefulness of dihydrotestosterone in the diagnostics of patients with androgenetic alopecia|National Library of Medicine

これと同じような結果が出ている研究もあれば、「AGA男性のほうがDHTの血中濃度が高い」という結果が出ている研究もあります。血液検査の効力については医学的に不明な点が多く、AGAの診断に使うのは難しいのが現状と言えます。

AGAの発症しやすさ・進行しやすさは、男性ホルモン受容体の遺伝子の個人差を測定したほうが正確に診断できると考えられます。AGA向け遺伝子検査キットが販売されているので、興味がある方は検討してみてください。

女性の薄毛(FPHL)とDHTの関係は?

DHTはFPHLの発症にも関係していると考えられていますが、まだはっきりしたことはわかっていません。

海外の研究によると、フィナステリドやデュタステリドはFPHLに対しても効果が期待できますが、AGAに対する効果と比べると、あまり効き目がよくありません。男性ホルモン受容体への結合をブロックする治療薬「スピロノラクトン」もある程度有効です。

参考:Female-pattern hair loss: therapeutic update|ScienceDirect

なお、フィナステリドやデュタステリドは男子胎児の性器発達に悪影響を及ぼす可能性があることから、国内の医療機関では女性に対して処方しないところが多いです。代わりにスピロノラクトンが用いられています。

筋トレするとDHTが増えてはげる?それとも抜け毛が減る?

筋トレによりDHTが増えてAGAになるという証拠はありません。運動によりAGAの発症や進行をある程度遅らせることができるかもしれません。

激しい運動をしている最中や直後には、血液中のテストステロンやDHTが増加しますが、運動後しばらくすると元に戻ります。

参考:Dihydrotestosterone is elevated following sprint exercise in healthy young men|American Physiological Society

運動によりDHTが継続的に増加した状態になるということはないので、筋トレがAGAの原因になることは考えられません。

定期的な運動は頭皮の栄養状態改善やストレス軽減につながり、「休止期脱毛症」による抜け毛を予防する効果が期待できます。AGAによる薄毛(頭髪が軟毛化した状態)を運動で改善することは難しいですが、AGAの発症や進行をある程度遅らせることはできるかもしれません。

まとめ|薄毛になったら治療薬でDHTを抑制するのがおすすめ

DHTは男性ホルモンの一種で、5α還元酵素を介してテストステロンから合成されます。男性ホルモンは男性ホルモン受容体と結合することでさまざまな反応を誘発します。胎児期から思春期にかけて、DHTは男性の体を作る上で決定的に重要な働きをし、成人男性の体では、他のホルモンとのバランスにより体内のさまざまな機能を調整しています。

AGAは、遺伝や加齢などの影響でDHTや男性ホルモン受容体が過剰に発生することで引き起こされます。AGAの進行を抑えるには、5α還元酵素の働きを抑える治療薬(フィナステリドやデュタステリド)が効果的です。

AGA治療薬は薄毛があまり進行してしまうと効きにくくなります。薄毛に気づいたら、早めに医療機関を受診して治療を開始してください。

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