毛根鞘(もうこんしょう)は毛の根元をぴったりと覆う組織で、本来は毛穴の奥に収まって毛の成長をサポートする役目を果たします。毛穴の外に露出した毛根鞘や抜け毛に付着した毛根鞘は、何らかの異常と関係している場合があります。
毛根鞘についてはネット上のさまざまなメディアで取り上げられていますが、医学的に不正確な情報が多く、事実とは正反対のことが書かれている場合も少なくありません。
ネット上で公開されている日本語の資料には、毛根鞘に関する専門的な文献がほとんど見当たりません。この記事では主に英語の医学資料(総説論文など)を参照しながら、毛根鞘の基本的な役割や異常・病気との関係、毛根鞘ごと毛を抜いた場合の影響などについて、正確にくわしく解説します。
※画像はイメージです
毛根鞘(もうこんしょう)の基本性質と種類
毛根鞘は3つに分類して考えることができます。
- 毛穴の奥に収まって成長期の毛根を包む毛根鞘(内毛根鞘+外毛根鞘)
- 1が抜け毛と一緒に外に出てきたもの
- 何らかの異常により1が毛穴の外に露出したもの(ヘアキャスト)
1が本来の姿ですが、目にすることが多いのは2です。
ここでは、まず2の外見的特徴などをまとめてフケや皮脂との違いを説明してから、毛根鞘の性質を種類ごとに解説します。
- 毛根鞘の形状・色|毛を包むビーズのような白い(半透明の)塊で、ぷるぷるした冷たい触感
- 毛根鞘と皮脂・フケの違い
- 種類① 毛穴の奥で成長中の毛根を包む内毛根鞘・外毛根鞘|毛の保持や成長補佐が役割
- 種類② 抜け毛に付いた毛根鞘|成長期の毛を毛根ごと抜くと付着
- 種類③ 毛穴の外に露出した毛根鞘(ヘアキャスト)|皮膚の異常などで発生
- 毛根鞘の性質・機能は髪の毛と体毛(アンダーヘア・髭など)で同一
毛根鞘の形状・色|毛を包むビーズのような白い(半透明の)塊で、ぷるぷるした冷たい触感
本来、毛根鞘は毛穴の奥のほうに固定されていて外から見えませんが、毛を抜いたときに根元に毛根鞘がくっついた状態で一緒に出てくることがあります。
抜け毛に付いた毛根鞘には以下のような特徴があり、フケなどと区別できます。
- 毛をぴったり包む細長いビーズのような形で、毛に沿って動かせる
- 色は透明感のある(半透明の)白
- 固いゼリーのようなぷるぷるとした触感で、冷たく感じることも
毛根鞘と皮脂・フケの違い
毛根鞘とフケは色が少し似ていることがありますが、形や感触、作られ方がまったく異なります。皮脂は毛穴の中の皮脂腺から分泌される脂分で、それ自体が塊になることはありません。「皮脂が黄色っぽい塊になって、毛の根元などをべったりと覆うことがある」と説明するメディアが少なくありませんが、これは誤りです。

| 見た目・感触 | 作られ方・機能・性質 | |
|---|---|---|
| 毛根鞘 | 透明感のある白 ゼリー状でぷるぷるした触感 | 成長期の毛の根元で作られる 毛を支え、成長をサポート |
| 皮脂 | 透明の脂分で、それ自体が大きな塊になることはない 多すぎると肌や髪がベタベタする | 毛穴の中の皮脂腺から分泌される 皮膚の潤いを保ち、毛の摩擦を小さくする(保護機能) 皮膚の常在菌(マラセチア)のエサになり、分泌量が多すぎるとフケや皮膚炎の要因になる |
| フケ | 白~やや黄色 かさかさしたフレーク状・粉状 | 皮脂の分泌過多で常在菌が過剰に繁殖し、角質層(皮膚の一番外側の層)が分厚くなり、菌が作り出す酸などの作用で角質層が剥離しフケとなる(かゆみを伴う) ※菌の繁殖がさらに進むと、黄色いうろこ状のフケの塊ができることがある(脂漏性皮膚炎) |
種類① 毛穴の奥で成長中の毛根を包む内毛根鞘・外毛根鞘|毛の保持や成長補佐が役割
毛は毛包という組織から生えてきます。毛包は「成長期→退行期→休止期→成長期」というサイクル(毛周期)を繰り返しています。本来、毛根鞘は毛の成長期に毛穴の奥で作られ、毛の成長をサポートする役目を果たす物質です。

毛根鞘は二重構造になっており、毛の根元を内毛根鞘が包み、さらにその外側を外毛根鞘が包んでいます。
- 成長期(頭髪では2~6年間):毛包の下部で毛乳頭や毛母細胞が活発に働いて毛の細胞が分裂・増殖し、メラニン色素で色づけされ、毛が上に向かって伸びていく
- 退行期(頭髪では2~3週間):毛包が収縮して細胞分裂やメラニン色素の生成が停止し、毛包が上のほうに持ち上がる
- 休止期(頭髪では数ヶ月間):成長が止まった毛の根元に棍棒状の膨らみができ、袋状の組織につなぎ止められる
- 休止期の終わり(脱毛期):毛根が袋状の組織から剥がれて自然な脱毛が発生し、毛包が下がって新しい成長期に入る
- 内毛根鞘と外毛根鞘が一体となって毛を支えて毛包内に固定し、毛の形や生える向きを整える
- 毛は毛穴の外まで伸びていくが、毛根鞘は毛穴の出口の少し手前まで達すると自然に毛から剥がれ落ちる(したがって毛穴の外には露出しないのが普通)
- 退行期から休止期にかけて毛根鞘は縮小・変質し、毛根の膨らみを包む袋状の組織の一部になる
| 内毛根鞘 | 3つの層からなる 内側の層:毛と逆向きのキューティクル構造によって毛の根元に絡みつく 真ん中の層:毛の形や伸びる向きを整える 外側の層:外毛根鞘と結合して毛を支える |
|---|---|
| 外毛根鞘 | さらに外側にある結合組織を介して毛穴の皮膚に結合し、毛を支える 成長因子を出して毛周期の調整にも関与する |
参考:Controls of Hair Follicle Cycling|American Physiological Society
参考:From Telogen to Exogen: Mechanisms Underlying Formation and Subsequent Loss of the Hair Club Fiber|ScienceDirect
種類② 抜け毛に付いた毛根鞘|成長期の毛を毛根ごと抜くと付着
生えている毛の85〜90%は成長期の毛とされているので、毛を意図的に引き抜けば成長期の毛を抜くことになる可能性が高く、毛根鞘が付いたまま抜けるケースも多いです。
このようにして露出した毛根鞘は、冒頭で説明した通り、透明感のある白い色をした細長いビーズ状の物質で、毛に沿って動かして抜き取ることができます。
一方、休止期の毛が自然に抜け落ちた場合にはこのような毛根鞘は付着しません。
種類③ 毛穴の外に露出した毛根鞘(ヘアキャスト)|皮膚の異常などで発生
通常、毛根鞘は毛穴の出口の手前までしか伸びませんが、皮膚の異常などにより毛穴の外にまで伸び、ちぎれて毛の根元に付着する場合があります。これは「ヘアキャスト」と呼ばれます。
参考:Hair Casts or Pseudonits|Ovid
成長期の毛の根元に付いている毛根鞘と比べて、ヘアキャストには以下のような特徴があります。
- 白または黄色で、透明感はあまりない
- 生えている毛の途中に付着している
- フケのようにあちこちにたくさん発生していることが多い
毛根鞘の性質・機能は髪の毛と体毛(アンダーヘア・髭など)で同一
体中のすべての毛は毛周期に従って成長と脱落を繰り返しています。毛周期の各期間の長さは部位によって異なりますが、仕組みは共通です。髪の毛であれ体毛であれ、成長期の毛の根元には毛根鞘が存在し、性質や機能は同一です。
毛根鞘と毛の正常・異常の関係
通常、自然に抜け落ちる毛は休止期の毛で、毛根鞘が付いていません。自然に抜けた毛に毛根鞘が付いている場合や、ヘアキャストが発生している場合、何らかの異常のサインかもしれません。
ここでは、毛根鞘の有無や毛根の形・色をもとに正常と異常を見分けるポイントをまとめます。これに関してはネット上のメディアでとくに多くの誤りが見受けられるため、ご注意ください。
- 自然に抜けた正常な毛根の特徴|「棍棒状の膨らみ」「先が白い」「毛根鞘がない」
- 「毛根鞘が付着した抜け毛」「先端まで黒くて膨らみがない抜け毛」が多い場合、脱毛症の可能性あり
- 抜いた毛に大きい毛根鞘が付いていたら異常?
- 毛の途中にヘアキャスト(露出した毛根鞘)が見られる場合、牽引性脱毛症や皮膚疾患の可能性あり
自然に抜けた正常な毛根の特徴|「棍棒状の膨らみ」「先が白い」「毛根鞘がない」
通常、自然に抜け落ちる毛は休止期の毛で、以下のような特徴があります。これらの特徴を備えた抜け毛は基本的に正常と判断できます。
- 根元が棍棒状に膨らんでいる
- 根元の先端だけ色が薄い(白っぽい)
- 毛根鞘が付いていない

1や2が判別しにくい場合、ルーペなどで拡大して観察してみてください。根元の膨らみは、毛を親指と人差し指で挟んでそのまま指を端までスライドしてみるとよくわかります(指にひっかかりを感じます)。
3は多くのメディアで間違って伝えられているポイントです。「毛根鞘は成長期の毛根で作られ、抜け毛にそのまま付いてくるのが正常」という感じで説明しているメディアが多いですが、毛周期による毛の変化を無視しており、事実に反します。
抜け毛に毛根鞘が付いている場合、以下の2つの可能性が考えられます。
- (A) 何かに挟んだり引っ掛けたりして、成長期の毛に強い力が加わり、抜けてしまった
- (B) 脱毛症により、成長期の毛が急に抜け落ちてしまった
Bについては次の節で説明します。
「毛根鞘が付着した抜け毛」「根元に膨らみがなく先端まで黒い抜け毛」が多い場合、脱毛症の可能性あり
毛根鞘が付着した抜け毛や、根元に棍棒状の膨らみがなく先端まで黒い(しっかり色の付いた)抜け毛は、成長期の毛が抜けたものと考えられます。そのような毛が多数抜け落ちている場合や、軽く引っ張っただけで次々と抜けてくる場合、成長期脱毛症が疑われます。
根元に膨らみがない抜け毛は円形脱毛症でも見られます。
| 抜け毛の状態 | 疑われる脱毛症 | 原因 |
|---|---|---|
| 毛根鞘が付着 根元に膨らみがない / 根元が先細り 先端まで黒い | 成長期脱毛症 | がんの化学療法 重金属中毒 重度のタンパク質不足 など |
| 根元に膨らみがない / 根元が先細り 毛の太さが均一でない 根元付近が白髪 | 円形脱毛症 | 自己免疫疾患(免疫システムが病原体などの外敵ではなく体内組織を攻撃してしまう) |
参考:Anagen Effluvium|National Library of Medicine
参考:The Ratio of Typical Clubbing in Pulled-Out Hairs as a Useful Marker in Predicting the Course of Alopecia Areata|National Library of Medicine
成長期脱毛症では、原因となっている薬剤・化学物質を体内から減らしたり、原因疾患(栄養不足など)を治療したりすることで、毛が回復する場合が多いです。
円形脱毛症では、症状の程度や変化に応じて適切な治療法を適宜選択しながら対処していく必要があります。主に以下の治療法が用いられます。
- ステロイド局所注射:脱毛部位に副腎皮質ステロイドを注射(脱毛範囲が広くない場合に適する)
- 局所免疫療法:脱毛部位に化学物質を塗布してアレルギー性皮膚炎を引き起こし、免疫バランスを変化させる(アトピー性皮膚炎の方には不適)
- ステロイド外用薬:脱毛部位に副腎皮質ステロイドを塗布(幅広いケースに適する)
- 点滴静注ステロイドパルス療法:短期入院で大量の副腎皮質ステロイドを集中的に点滴投与(急速・広範囲に脱毛が進むケースなどに適用)
抜いた毛に大きい毛根鞘が付いていたら異常?
毛根鞘の大小は異常とは関係しません。毛根鞘のサイズには幅があり、抜いた毛にかなり大きな毛根鞘が付いていることもあります。
抜け毛には内毛根鞘のみ付着している場合と、内毛根鞘・外毛根鞘の両方がそろって付いてくる場合があります。外毛根鞘のサイズは部位による差や個人差が大きいです。
抜け毛に内毛根鞘・外毛根鞘の両方が付いている場合(とくに、外毛根鞘がよく発達している場合)、かなり大きめの毛根鞘が見られます。
毛の途中にヘアキャスト(露出した毛根鞘)が見られる場合、牽引性脱毛症や皮膚疾患の可能性あり
ヘアキャストの発生原因は不明な場合が少なくありませんが、毛包や皮膚にはっきりしたダメージや炎症を伴うケースもあります。とくによく見られるのは、牽引性(けんいんせい)脱毛症、脂漏性(しろうせい)皮膚炎、乾癬(かんせん)に伴うヘアキャストです。
参考:Hair Casts or Pseudonits|Ovid
牽引性(けんいんせい)脱毛症のケース
毛を強く引っ張って固定するタイプの髪型を長期間続けることで発症する脱毛症です。きついポニーテールや編み込みなどの髪型が主な原因で、縮毛矯正やヘアアイロン、エクステ、ヘアアクセサリーは発症リスクを高めます。
髪で頭皮が引っ張られる部分(ポニーテールではおでこ~耳の上、編み込みでは分け目部分など)で毛包にダメージが蓄積し、髪がだんだんと薄くなっていきます。初期症状としてヘアキャストがよく見られます。
ある程度の段階までは、引っ張る髪型をやめることで髪が回復します。牽引性脱毛症を長年放置した場合、毛包が破壊されて二度と髪が生えなくなる「瘢痕性(はんこんせい)脱毛症」に発展する恐れがあります。
参考:Review of traction alopecia in the pediatric patient: Diagnosis, prevention, and management|Wiley
脂漏性(しろうせい)皮膚炎のケース
皮脂の過剰分泌で常在菌(マラセチア)が大量に繁殖するとかゆみやフケの原因になりますが、繁殖がさらに進むと炎症が生じ、皮膚に赤い発疹や黄色っぽいうろこ状の塊などができます。この状態は脂漏性皮膚炎と呼ばれます。
脂漏性皮膚炎による炎症の影響で、毛根鞘が毛穴の上の方に達しても毛から剥がれず、毛と一緒に毛穴の外まで出てきて、ヘアキャストとなることがあります。
脂漏性皮膚炎の治療法は症状の重さによって変わります。
- 軽度の場合:ジンクピリチオンやティーツリーオイル、コールタール、二硫化セレンを配合したシャンプー
- 中等度~重度の場合:ステロイド剤や抗真菌薬を配合したシャンプー、塗り薬のステロイド剤や抗真菌薬
- 上記で治りにくい場合:飲み薬の抗真菌薬(フルコナゾールやイトラコナゾールなど)
参考:Understanding the Scalp: Dandruff and Seborrheic Dermatitis|Sage Journals
乾癬(かんせん)のケース
皮膚に赤く盛り上がった発疹(丘疹・プラーク)ができる病気です。患部の角質層が分厚くなり、皮脂の分泌が阻害されて肌が激しく乾燥し、銀白色の粉が吹いたり、うろこ状になって皮が剥がれたりします。
脂漏性皮膚炎と同じく、毛根鞘が毛からうまく剥がれずにヘアキャストとして毛穴の外に出てくることがあります。
乾癬の原因はまだ十分にわかっていませんが、自己免疫疾患(本来外敵から体を守るはずの免疫システムが体内組織を攻撃してしまう病気)の一種と考えられています。
治療法は、症状の程度や変化に合わせて、「外用薬」「光学療法」「内服薬」「抗体療法」から適宜選択されます。患部の過度な乾燥を防ぐため保湿剤が併用されます。
- 外用薬:ステロイド剤やビタミンD3製剤、免疫抑制剤など
- 光学療法:特定波長の紫外線を照射
- 内服薬:レチノイドや免疫抑制剤など(ツメの変形や関節炎を伴う場合などに適用)
- 抗体療法:生物学的製剤を注射(上記の治療法が効かない場合や副作用で使えない場合に適用)
参考:Psoriasis|National Library of Medicine
毛根鞘とAGAには関係がある?
多くのメディアで「毛根鞘がない抜け毛はAGAのサイン」という解説がなされていますが、これも事実と異なります。
ここでは、AGAの基本情報(発症メカニズム・症状・治療法)を簡単に解説してから、毛根鞘とAGAの関係について正確な情報をまとめます。
- AGAは毛包が萎縮する病気で、成長中の毛の毛根鞘に変化が生じている可能性がある
- AGAで毛が抜けやすくなることはない
- AGAの抜け毛は通常よりも細いが、それ以外は正常な抜け毛と変わらない
- 抜け毛の毛根鞘とAGAには関係がない
AGAは毛包が萎縮する病気で、成長中の毛の毛根鞘に変化が生じている可能性がある
AGAの根本的な症状は毛包の萎縮です。毛包が萎縮するにつれて毛が育ちにくくなり、生え替わりも滞って、薄毛が少しずつ進行します。

- 血流に乗って頭髪の毛包に運ばれてきたテストステロン(男性ホルモンの一種)が、5α還元酵素の働きでDHT(別の男性ホルモン)に変化
- DHTが男性ホルモン受容体と強く結合し、毛包萎縮の反応を引き起こす
- この反応が少しずつ積み重なって毛包が萎縮していく
- 毛包が萎縮するにつれ、毛の成長期が短縮して毛が伸びにくくなり、産毛のように細くて短い毛(軟毛)しか生えなくなっていく
- 休止期が長くなり、抜けたままで次の毛に生え替わらない毛包が増えるため、髪の密度が低下する
- フィナステリド/デュタステリド(内服薬):5α還元酵素の働きを妨害してDHTを作られにくくし、毛包の萎縮を抑制する
- ミノキシジル(内服薬・外用薬):休止期から成長期への移行(新しい毛の発生)を促進し、成長期を長くして毛を育ちやすくする
- 自毛植毛:後頭部などから自分の頭皮を採取して薄毛部位に移植する
参考:男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン(2017年度版)|日本皮膚科学会
毛包の萎縮に伴い、外毛根鞘が若干薄くなります(内毛根鞘は変化なし)。
AGAで毛が抜けやすくなることはない
AGAでは外毛根鞘が少し薄くなりますが、毛根鞘の機能(毛の保持など)が損なわれるほどではありません。毛も細くなるので、それに合わせて順当に変化したという感じです。産毛は毛本体に比べて内毛根鞘が厚めで、外毛根鞘は薄いという特徴があり、AGAの毛はそれに近づきます。
世間では「AGA=抜け毛が増える」というイメージが広まっていますが、抜け毛の量はとくに変化しません。AGAの主な症状は毛が細く短くなっていく(軟毛化する)ことなので、抜け毛をチェックする際には「数」ではなく「太さ」に着目することが重要です。
AGAの抜け毛は細くなるが、それ以外は正常な抜け毛と変わらない
AGAの毛包では成長期が短くなり、休止期が長くなりますが、毛周期の基本的なパターンは維持されます。
成長期が短くなった分だけ毛が細くなり、抜け毛にも細い毛が多数混じるようになりますが、退行期から休止期にかけての変化は通常通り起こり、休止期には「毛根に膨らみがあって毛根鞘が付いていない毛」が抜け落ちます。
AGAでも毛の生え替わりは繰り返されます。最終的にまったく毛が生えてこないように見える部位が生じることがありますが、実際には毛は生え替わりを続けており、毛の成長が毛穴の中で止まってしまうため毛がないように見えるだけです。
抜け毛の毛根鞘とAGAには関係がない
毛根鞘の有無という点ではAGAの抜け毛と健康な抜け毛には変わりがないので、毛根鞘の有無によってAGAの可能性を判断することはできません。
以下の括弧内のように説明しているメディアが多いですが、これらはすべて誤りです。
- 「AGAでは毛根鞘の発達が不十分で、毛が抜けやすくなる(毛根鞘が十分に形成されないうちに毛が抜けてしまう)」
→AGAでは成長期が短くなるが、毛根鞘は成長期の初期に十分に形成され、毛の保持などの機能には問題がない
- 「正常な毛包では毛根鞘が十分に形成されるので抜け毛に毛根鞘が付いてくるが、AGAでは毛根鞘が発達しないため、毛根鞘のない抜け毛が生じる」
→正常な抜け毛は休止期に毛根鞘がない状態で抜け、AGAの抜け毛も同じ
- 「毛根鞘が付いていない抜け毛はAGAのサイン」
→実際には正常な抜け毛のサインであることが多い
毛根鞘が付いた毛を抜くとどうなる?
ムダ毛処理のために毛を無理に抜く方は多く、なかには、「毛を抜くと生えてこなくなる」という情報を信じて毛根を死滅させるために抜く方もいます。
生えている毛の大半は成長期の毛なので、毛を意図的に抜けば、毛根鞘が付いた状態で抜ける場合が多いです。
ここでは、毛根鞘の付いた毛(成長期の毛)を抜いた場合の影響についてまとめます。
- 毛根鞘のない毛に比べて、ダメージや出血、炎症が発生する恐れが高い
- 皮膚の中に毛が入り込む「埋没毛」の誘因となる可能性もある
- 毛根鞘が付いた毛をうまく抜くコツは?
- 通常は「毛を抜いたら生えてこない」ということはなく、「薄くなる・濃くなる」こともない
- 繰り返し抜き続けると毛乳頭などが破壊され、永久に毛が生えなくなる可能性がある
- 毛抜きにより意図的に「毛根を殺す」ことは難しい

毛根鞘のない毛に比べて、ダメージや出血、炎症が発生する恐れが高い
成長期の毛は毛根鞘と結合組織によって毛穴の皮膚につなぎ止められています。成長期の毛を抜くには力を加えて皮膚から引き剥がす必要があり、その際に周辺組織にダメージが生じる可能性が高いです。
出血を伴ったり、ダメージがもとになって炎症や感染症が生じたりすることがあり、それらが治った後に色素沈着が残って肌が黒っぽくなることもあります。
一方、退行期から休止期にかけては毛が抜けやすくなる方向に各組織が変化し、毛と周辺組織の結合は緩くなっていきます。この時期であっても、意図的に毛を抜けば多少のダメージが生じる可能性はありますが、成長期に比べると炎症などのリスクは低いです。
皮膚の中に毛が入り込む「埋没毛」の誘因となる可能性もある
細い毛やダメージが蓄積してもろくなった毛を無理に抜こうとすると、途中で切れてしまうことがあります。成長期の毛は毛根鞘でつなぎ止められていて抜けにくいので、途中で切れるリスクが高いと言えます。途中で切れた毛は「埋没毛」を引き起こすことがあります。
途中で切れて毛穴のなかに残った毛はそのまま伸び続けますが、毛の切断面がとがっていると、毛が皮膚に突き刺さって中にもぐりこんでしまうことがあります。毛がカールしている場合、いったん毛穴の外に出てから引き返して皮膚に潜り込むこともあります。これらが埋没毛と呼ばれる状態です。埋没毛は炎症を伴い、発疹(ぶつぶつ)や膿疱(うみがたまった膨らみ)ができることもあります。
参考:Pseudofolliculitis barbae; current treatment options|National Library of Medicine
自分で無理に埋没毛を引き抜こうとすると、炎症を悪化させてしまう恐れが高いです。通常、埋没毛は新陳代謝とともに自然に皮膚の外に露出します。埋没毛がなかなか治らない場合や発疹・膿疱などの皮膚症状が続く場合は、医師に相談してください。
毛根鞘が付いた毛をうまく抜くコツは?
成長期の毛かどうかは外から見てもわからないので、毛根鞘の付いた毛だけを狙うコツはありません。
できるだけ周辺組織に負担をかけずに抜くためには、以下の2点が重要です。
- 毛が伸びている方向に沿って引っ張る
- 傷からの感染を防ぐため、手や毛抜き器具を事前に洗浄する
毛が伸びる方向(=毛穴の向き)からずれていると、横方向に力が逸れて、周辺組織に余分なダメージを与えます。
毛穴は皮膚表面に対して斜めになっているのが普通です。直に目で見て確認できる部分の体毛であれば伸びる方向を確認しやすいですが、それ以外の体毛や頭髪ではかなり勘に頼ることになるでしょう。
以下の括弧内のようなコツがよく紹介されますが、医学的な根拠がなくまったく効果が期待できない(×印)か、部分的にしか効果が期待できません(△印)。
- 「毛を抜く前に皮膚を温めると毛穴が開いて抜きやすくなる」
→皮膚表面は多少ふやけるが、毛穴が開くことはない(熱い湯に皮膚を浸すと毛が膨らみ途中で切れた際にとがりにくくなるので、埋没毛を予防する効果はあり)
- 「抜いた後に肌を冷やすと炎症が抑えられる」
→皮膚表面に対しては一定の効果が期待できるが、毛の根元の組織に生じたダメージには不十分
- 「抜いた後にローションやクリームでケアする」
→保湿成分は皮膚の回復力を保持する効果が期待できるが、それ以外の化粧成分はダメージを隠して肌をきれいに見せるだけで、炎症からの回復を遅らせる要因にもなりうる
結論としては、「毛根鞘が付いた毛をうまく抜くコツはあまりなく、周辺組織へのダメージを十分に抑えることは難しい」ということになります。医学的には、「毛根鞘が付いてくるような毛は無理に抜かない」のが正解です。
通常は「毛を抜いたら生えてこない」ということはなく、「薄くなる・濃くなる」こともない
「毛を抜くと二度と生えてこなくなる」あるいは「薄くなる」という話を聞いたことがある方は多いかと思いますが、これは俗説で、通常はそのようなことは起こりません。毛を抜かれた毛包はやがて休止期に移行し、しばらくすると次の成長期が始まって、また同じところに毛が生えてきます。
反対に、「毛を抜くと濃くなる」という話もあります。マウス(ハツカネズミ)を使った実験では、ある特定のパターンで200本の毛を抜いたところ最大1,200本の毛が生えてきたという結果が報告されています。
参考:Organ-Level Quorum Sensing Directs Regeneration in Hair Stem Cell Populations|CellPress
しかし、動物の毛皮と人間の毛は一緒にできません。少なくとも今のところ、人間の毛ではそうした現象は見つかっていません。
繰り返し抜き続けると毛乳頭などが破壊され、永久に毛が生えなくなる可能性がある
同じ毛穴から何度も繰り返し毛を抜き続けると、毛包にダメージが蓄積し、毛を作るのに必要な毛乳頭などの組織が完全に破壊され、二度と毛が生えてこなくなる可能性があります。
ただし、これはめったに起こることではありません。
同じ毛穴の毛を抜くには次の毛が生えてくるのを待たなければならず、通常はその間に毛包のダメージは回復します。
牽引性脱毛症では、毎日長時間、長期間にわたって毛包にストレスがかかることで、炎症がだんだんと悪化し、最終的に髪が二度と生えなくなることがあります。毛を抜く場合も、同一箇所で炎症が再発・慢性化してだんだん悪化していくようなことがあれば、そのような事態が起こりえるでしょう。
毛抜きにより意図的に「毛根を殺す」ことは難しい
同じ箇所から何度も毛を抜き続けても、毛包が破壊されるとは限りません。毛を抜いたときのダメージはケースバイケースで、遺伝的な体質(発毛力・炎症の起きやすさ・治りやすさなど)や偶然的な要素(傷口からの細菌感染など)も大いに関係します。
辛抱強く続ければいくらかの毛は「永久脱毛」が可能かもしませんが、狙った部位の毛をほぼすべて脱毛しきるようなことはできないでしょう。
また、無理に抜き続けることで肌に色素沈着や傷跡が残ってしまう恐れもあり、そうなると肌をきれいに見せたいという目的に反する結果になってしまいます。
過剰に毛を抜いてしまう場合は「抜毛症」の可能性あり
病的なほどに繰り返し毛を抜いてしまい、やめたくてもやめられないケースがあり、「抜毛症(ばつもうしょう)」または「トリコチロマニア」と呼ばれます。抜毛症の方のなかには、とくに毛根鞘が付いた毛を抜くのを好む方も多いです。
ここでは、抜毛症の症状や治療法についてまとめます。
- 抜毛症(ばつもうしょう)の症状|「はげが目立つほど抜いてしまう」「やめたくてもやめられない」
- 緊張や退屈からの解放を伴い、「毛根鞘を抜くのが気持ちいい」「毛根鞘を食べるのが好き」という人も多い
- 意識的に毛を抜くタイプと無意識的に抜くタイプがある
- 治療は認知行動療法や抗うつ薬で行う(自力で治すことは困難)
抜毛症の症状|「はげが目立つほど抜いてしまう」「やめたくてもやめられない」
抜毛症には以下の2つの特徴があります。
- 「特定部分がはげる」「髪が明らかに薄くなる」など、心身の健康や社会生活に影響が生じるほど毛を抜いてしまう
- それを苦痛に感じ、本心から抜毛をやめたいと思い、やめる努力をしたりもするが、なかなかやめられない
頭髪を抜くケースが最も多いですが、まゆげやまつげ、ひげ、体毛を抜くケースもあります。あちこちの毛をまばらに抜く方もいれば、特定部位を集中して抜く方もいます。
緊張や退屈からの解放を伴い、「毛根鞘を抜くのが気持ちいい」「毛根鞘を食べるのが好き」という人も多い
抜毛症では、毛を抜く前に心理的なストレスを感じているケースが多いとされています。以下のようなパターンが代表的です。
- 嫌な体験や考えによって緊張や動揺が高まり、意識的に毛を抜くことでそうした感情から解放される
- 自由に行動できない状況や手持ち無沙汰な状況で窮屈さや退屈、イライラを感じ、無意識的に毛を抜いて落ち着きを取り戻す
毛を抜くことでネガティブな状態から解放されるという経験をし、それを通して抜毛が「快さをもたらす行動」として学習され、習慣化していき、最終的にやめたいと思ってもやめられない状態(抜毛症)にまで発展します。
「毛根鞘を抜くのがとくに気持ちいい」という方も多いです。毛根鞘ごときれいに抜けると達成感や爽快感が得られることから、抜毛行動を強める要因になっているものと見られます。毛根鞘を食べる癖がセットになっている方も少なくありません。
意識的に毛を抜くタイプと無意識的に抜くタイプがある
抜毛症は意識型と無意識型に分類できます。
- 意識型:毛を抜く感覚を求めて、意識的に抜毛を行うことが多いタイプ
- 無意識型:毛を抜くことを意識せず、なんとなく(いつの間にか)抜いてしまうことが多いタイプ
意識型の人は、「毛を抜きたいという衝動」や「毛を抜く感覚」を意識しながら抜毛を行うことが多いです。無意識型の人は、考えるよりも先に手が動いていて、毛を抜いてしまった後で自分の行動に気づくというパターンになりがちです。
意識型の人は、性格的に完璧主義の傾向が強かったり、触感・音・光などの感覚刺激に過敏であったりすることが多いとされています。抜毛症は強迫性障害関連疾患に分類されますが、とくに意識型は強迫性障害の症状と関連が深いと考えられます。
一方、無意識型の人はADHD(注意欠如・多動症)の症状を伴うケースが少なくありません。
- 強迫性障害:特定の考えにとらわれ、同じ行動を苦痛に感じながら繰り返してしまう(「汚れ・ばい菌が気になって何度も手を洗ってしまう」など)
- ADHD:発達障害の一種で、注意が過度に逸れやすく、「じっととどまる」「一つのことに集中する」「順序立てる」「整理整頓する」などが苦手
参考:Recent advances in trichotillomania: a narrative review|Acta Dermatovenerologica
認知行動療法や抗うつ薬で治療(自力で治すことは困難)
抜毛症の治療は認知行動療法や抗うつ薬で行われます。認知行動療法では主に「習慣逆転法」が用いられます。
- 以下の訓練を専門家や家族の支援のもとで実施する
| 【①気づき訓練】 | 自分の抜毛習慣に注目し、抜毛のきっかけや前兆を把握して、実際に抜毛が起こる前にそれらを自覚できるようにする。 |
|---|---|
| 【②拮抗反応訓練】 | ①ができるようになったら、抜毛に取って代わる行動(抜毛と同時にできず、害がなく、自分に合っていて続けられるもの)を決め、毛を抜きたくなったら代わりにその行動をとるようにし、習慣化していく。 |
- 瞬間的に行うもの:「手を固く握る」「太ももをつかむ」「ボールを握る」など
- 一定時間集中を伴うもの(趣味にできるもの):工作、手芸、園芸、楽器演奏など
抗うつ薬は「選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)」が用いられることが多く、認知行動療法と併用するとより高い効果が期待できるとされています。
抜毛症を自力で治すことは困難です。抜毛症の子どもを親が叱って治そうとするケースが少なくありませんが、本人もやめたいのにやめられない状態なので、叱っても意味がありません。繰り返し叱られることがストレスとなり、かえって抜毛行動が強まることもあります。
医療のサポートを活用しながら、自分の症状や性格、ストレスとうまく付き合っていく方法を身につけていくことが重要です。
まとめ|毛根鞘を抜くのは避け、脱毛症や皮膚の異常、過剰な抜毛は早めに医師に相談
毛根鞘は成長期の毛根を包む物質で、毛を周辺組織につなぎ止めるとともに、毛の形や向きを整える役割を果たします。毛根鞘が付いた毛を引き抜くことは、炎症や色素沈着、埋没毛などの原因となるため、できるだけ避けてください。
通常、自然に抜け落ちる毛は休止期の毛で、毛根鞘は付いていません。毛根鞘が付いた抜け毛やヘヤキャストが大量に発生した場合、脱毛症や皮膚炎の可能性があるため、早めに医師に相談してください。
毛根鞘ごと毛を抜く快感が、抜毛症の習慣を強めているケースがあります。抜毛症は自分で治すことが難しく、長期化しやすいため、こちらも早めに医療機関に相談することをおすすめします。


