男性の薄毛の象徴とも言える「生え際の後退」。実は、個人差(生まれつきのおでこの広さや形)によって「後退した」と誤認してしまうケースもあります。
一方、初期症状を見逃すと気づかないうちに進行してしまうリスクもあります。
専門的な医学資料や研究データに基づき、生え際後退の正確なセルフチェック方法(5つのサイン)から、原因となるAGAのメカニズム、医療機関で受けられる対策までを解説します。
生え際後退の5つのサイン|正常な生え際との違いや見分け方
生え際が後退しているかどうかは、生え際の「形」「密度」「太さ」、抜け毛の「太さ」、両者の「変化」から判断できます。この5つのサインのうち、生え際の「形」と「密度」はぱっと見でもわかりやすいですが、それだけでは不十分なことが多いです。本当に後退しているか見極めるためには、生え際・抜け毛の「太さ」や「変化」をよくチェックする必要があります。
- ①生え際の形|おでこの両端が後退して「M字型」になっている(またはおでこ全体が後退)
- ②生え際の毛の密度|前髪(とくに両端)が他の部位より薄い
- ③生え際の毛の太さ|生え際周辺に細い毛が広がっている
- ④抜け毛の太さ|バラツキがあり、細い毛が多数混じっている
- ⑤生え際・抜け毛の変化|以前と比べて変わった(急にではなく、じわじわと)
- 生え際後退のサインをチェックする方法|合わせ鏡で確認、写真・動画撮影で経過を観察

①生え際の形|おでこの両端が後退して「M字型」になっている(またはおでこ全体が後退)
典型的には、男性の生え際の後退はおでこの中央よりも両端で先に進行し、その結果、生え際のラインが「M」の字のような形になります。進行するほど、M字の切れ込みが深くなっていきます。
まれに、おでこ全体が大体均等に後退して生え際のラインが「逆U字型」になる人もいます。
頭部を真横から見て、生え際の先端(M字の切れ込みやU字の底)が耳の真上あたりまで達していたら、かなり後退が進んでいる可能性が高いです。
生え際の後退がまだあまり進んでいない段階では、それほどはっきりしたM字・U字にはならず、生え際の形だけでは正常な生え際との区別が難しい場合が多いです。
②生え際の密度|前髪(とくに両端)が他の部位より薄い
生え際後退は「生え際周辺の髪がだんだんと薄くなりながら」進行します。生え際周辺の髪がまばらになり、生え際のラインがぼやけているなら、生え際後退が起こっている可能性があります。
逆に、生え際周辺の髪がフサフサとしていて、生え際のラインが濃くはっきりしているなら、生え際は後退していない可能性が高いです。
生え際後退があまり進んでいない段階では、密度の低下がわかりにくいことがあります。
③生え際の毛の太さ|生え際周辺に細い毛が広がっている
後退中の生え際の周辺では、毛が育ちにくくなり、細い毛(軟毛)しか生えないようになっていきます。これを「軟毛化」と言います。
生え際後退とは、「軟毛化が頭のてっぺんに向かって徐々に進んでいくこと」です。M字・U字の形(①)や髪の密度低下(②)は軟毛化の結果です。軟毛化は最も根本的なサインと言えます。
生え際周辺に細い毛が多数生えている(全体的に細いか、太い毛の間に細い毛が多数混じっている)なら、軟毛化による生え際後退が起こっている可能性が高いです。
ただし、もとから生え際には太い毛ではなく産毛が広がっているという男性もいて、軟毛と見分けにくいことがあります(女性はそれが普通ですが、男性でもまれに見られます)。生え際ギリギリのところだけでなく、少し奥(髪の中のほう)まで観察し、そこにも細い毛が広がっていないかチェックしてみてください。
④抜け毛の太さ|バラツキがあり、細い毛が多数混じっている
一本一本の髪の毛は、数年程度のサイクルで生え替わりを繰り返しています。数年程度伸び続けた後、成長が止まり、数ヶ月して自然に抜け落ち、同じ毛穴に新しい毛が生えてきます。
正常な頭皮では髪が十分に育ってから抜けますが、生え際後退が起こっているところでは毛の成長期間が短くなり、毛が十分に育たないまま抜けます(=軟毛化した毛が抜ける)。そのため、生え際後退が起こっている人の抜け毛には細い毛が多数混じるようになります。
世間では「薄毛=抜け毛が増える」というイメージが広まっていますが、これは正しくありません。実際には、「毛の発育不全」と「生え替わりの停滞」が主な症状で、その結果、髪が薄くなって生え際が後退します。
誤ったイメージから抜け毛の「数」に注目する方が多いですが、生え際後退などの薄毛症状をチェックする際には毛の「太さ」に注目することが重要です。
⑤生え際・抜け毛の変化|以前と比べて変わった(急にではなく、じわじわと)
「人よりおでこが広い」などの理由で生え際後退を疑う方がいますが、生え際後退は「自分のもともとの生え際と比べて後退している」ということなので、他人とではなく過去の自分と比べる必要があります。
生え際後退がよほど進行したケースなら、一般的な他人と比べても、過去の自分と比べても、生え際が後退していることは明らかです。しかし、それほど進行していない段階では、「他人とだけ比べる」と勘違いにつながりやすいです。
また、生え際後退はゆっくりと進行するので、数年程度の変化を見ないと、変化が自覚できないことが多いです。
数ヶ月や半年程度の短期間で急激に生え際が薄くなった場合は、生え際の後退ではなく、別の脱毛症(抜け毛増加)が起こっている可能性が高いです。これについては後ほど、「生え際後退と勘違いしやすいケース」のところで解説します。
生え際後退のサインをチェックする方法|合わせ鏡で確認、写真・動画撮影で経過を観察
前髪は普通の鏡でも観察できますが、じっくりとチェックするには合わせ鏡を使ったほうがよいでしょう。据え置きの鏡と手鏡を合わせるか、三面鏡を縦に広げて使うのがおすすめです。とくに、軟毛化の様子をじっくり観察してください。
生え際後退はゆっくり進行するので、変化をとらえるには、数年前または数年後の自分と比較する必要があります。
記憶だけをもとに比較すると不正確になりやすいので、生え際がはっきり写った数年以上前の写真・動画があれば、それと比べてください。なければ、今から定期的にスマホなどで写真・動画を撮影し、経過を観察するとよいでしょう。
少なくとも2年〜3年くらい撮影と観察を続けて変化が見られなければ、今のところは後退が起こっていない可能性があります。
ただし、生え際や抜け毛に細い毛がすでに目立つなら、数年分の写真がそろうのを待たずに医師に相談してください。

生え際後退の原因と発症年齢
生え際後退はAGA(男性型脱毛症)の症状のひとつです。ここでは、AGAの原因と発症年齢についてわかりやすくまとめます。
- 生え際後退はAGA(男性型脱毛症)の典型的な症状
- 主な原因は遺伝と加齢
- 栄養不足やストレス、喫煙・飲酒などが発症・進行を早める可能性がある
- 40代以降に症状が目立つケースが多いが、20代でも発症する
生え際後退はAGA(男性型脱毛症)の典型的な症状
生え際後退は、つむじ周りの薄毛と並んで、AGAの典型的な症状です。AGAは前髪の生え際から始まることが多く、大多数の方が生え際の後退を経験します。
AGA以外の脱毛症でも前髪周辺が薄くなることはありますが、時間とともに生え際が徐々に後退していくという進行パターンはAGAに特徴的なものです。
主な原因は遺伝と加齢
AGAの原因は完全には解明されていませんが、遺伝と加齢が主要な原因であることがわかっています。AGAの遺伝率は80%程度とされ、近親者(親や祖父、兄弟など)にAGAの人がいると、自分もAGAになりやすいと考えられます。
AGAは以下のようなメカニズムで発症・進行します。ここで主要な役割を果たす男性ホルモン受容体や5α還元酵素の遺伝子の個人差が、AGAの主な原因と考えられています。
- テストステロン(男性ホルモンの一種)が血流に乗って、頭皮の毛包(毛をつくる組織)に運ばれる
- 毛包内にある5α還元酵素の働きで、テストステロンがDHT(別の男性ホルモン)に変化する
- DHTが毛包の男性ホルモン受容体と強く結合し、毛包を萎縮させる反応を引き起こす
- この反応が少しずつ積み重なり、毛包がだんだんと萎縮していく
- その結果、毛の育ちが悪くなり、毛の生え替わりも滞る
- AGAでは前頭部(前髪周辺)・頭頂部(つむじ周辺)が薄くなりやすく、後頭部・側頭部は薄くなりにくいが、これは各部位の遺伝子の働き方(発現)の違いによるところが大きい
- 頭皮の毛包にある男性ホルモン受容体の遺伝子は個人差が大きく、男性ホルモン受容体がたくさん作られるタイプの遺伝子を持つ人は、AGAを発症しやすい
- その他、5α還元酵素の遺伝子など、複数の遺伝子が関わっていると考えられるが、全容は解明されていない
参考:Androgenetic Alopecia in Men: An Update On Genetics|Indian Journal of Dermatology
AGAは加齢とともに発症率や進行度が高まるため、加齢が大きな要因のひとつであると考えられますが、具体的なメカニズムについてはあまりよくわかっていません。
2026年4月に滋賀医科大学の研究グループが発表した論文では、以下のようなメカニズムが指摘されています。
- 頭皮の皮脂腺(皮脂を出すところ)を中心にDHT不活化酵素(DHTを不活性化して別の物質に変換する分子)も存在し、その働きで頭皮のホルモンバランスが保たれている
- 加齢とともにDHT不活化酵素が作られにくくなり、ホルモンバランスが変化してDHTの作用が強まり、年齢とともに進む薄毛の一因になる可能性がある
参考:ヒト頭皮脂腺においてジヒドロテストステロン不活化酵素の発現は加齢に伴い低下する|滋賀医科大学
栄養不足やストレス、喫煙・飲酒などが発症・進行を早める可能性がある
以下のような生活習慣もAGAに影響するとされています。
- 栄養(とくにビタミンD・鉄・亜鉛など)の不足
- 心身のストレス
- 喫煙
- 飲酒
- 睡眠不足
ただし、生活習慣だけでAGAが発症することはなく、こうした生活習慣上の要因は補助的な要因にとどまります。遺伝的体質や加齢によってAGAが発症・進行しやすい状態になっているところに、生活習慣上の要因が重なると、発症・進行が多少早まる可能性があります。
40代以降に症状が目立つケースが多いが、20代でも発症する
2004年に発表されたAGAに関する意識調査では、日本人男性のAGA発症率が以下のようになっています。明らかに年齢とともに発症率が高まっています。
| 年齢 | AGA発症率 |
|---|---|
| 20代 | 約10% |
| 30代 | 約20% |
| 40代 | 約30% |
| 50代以降 | 40数% |
参考:男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン2017年版|日本皮膚科学会
初期のAGAは自覚されないケースが多いですが、上記の数字は意識調査の結果であるため、症状の自覚がない人は含まれません。また、AGAでないのにAGAだと勘違いしている人が少し含まれている可能性があります。両者を加味すると、実際に発症している人の割合はもう少し多くなるのではないかと推測されます。
症状の進行度も加齢とともに高まります。日本人男性5,372名(20歳〜65歳)の進行度を調べた研究では、以下のような傾向が見られました。
| AGA進行度 | 年齢の分布 | 最も多い年代 | |
|---|---|---|---|
| 初期 | Ⅰ | 20代~40代前半 | 20代(とくに20代前半) |
| Ⅱ | 20代~50歳前後 | 20代 | |
| 中期 | Ⅲ | 20代~50代 | 30代 |
| Ⅳ | 20代半ば~60代 | 30代~40代 | |
| 後期 | Ⅴ | 20代後半~60代 | 30代後半~50代前半 |
| Ⅵ | 30代~60代 | 40代~50代 | |
| Ⅶ | 30代半ば~60代 | 50代後半~60代 |
このデータから、以下のようなことが読み取れます。
- 薄毛が目立ってくるAGA中期(進行度Ⅲ・Ⅳ)の段階に達するのは、30代〜40代の場合が多い
- 20代で初期AGAを発症している例(若はげ)も少なくなく、中には中期や後期の初め(進行度Ⅴ)に達している人もいる
- 30代は初期の人から後期の人までいて、大きな変わり目の年代
- 一方で、40代~50歳前後になってから発症する人もいる
上記データはAGA治療でクリニックを受診した人のものなので、治療を受けていない人も含めた場合と比べると、進行度が高めに出ている可能性があります(とくに若い年代)。
AGA進行度はハミルトン・ノーウッド分類によるものです。これは治療現場や研究で最もよく用いられている分類です。
■ハミルトン・ノーウッド分類の概要
| 進行度 | 状態 |
|---|---|
| Ⅰ | おでこの生え際がほんの少し後退(自覚しない人が多い) |
| Ⅱ | 生え際がもう少し後退して、M字型・U字型が明確になってくる(まだ自覚しない人も少なくない) |
| Ⅲ | 生え際がさらに後退し、M字・U字が深くなり、生え際の先端が耳の真上付近にまで達する 人によっては頭頂部も薄くなり始める |
| Ⅳ | 生え際の先端が耳の真上の線を越える 頭頂部の薄毛も目立つ人が多い |
| Ⅴ | 前頭部・頭頂部の両方で薄毛が目立つ |
| Ⅵ | 前頭部と頭頂部の間に残っていた髪の帯がなくなり、両方の薄毛がつながる |
| Ⅶ | 前頭部と頭頂部の薄毛がつながり、全体的にはげた状態 |
参考:Classification of Male-pattern Hair Loss|National Library of Medicine
生え際後退の初期症状と進行パターン
男性型脱毛症は「生え際の後退」と「つむじ周りの密度低下」が組み合わさって進行します。主な進行パターンに「M型」「U型(C型)」「O型」があります。上記のハミルトンノーウッド分類は「M型」と「U型」に対応しています。
ここでは、生え際後退の初期症状と各パターンの特徴についてまとめます。
- ゆっくり進行するので、初期症状(はげ始め)には気づかない人が多い
- M型のパターン(M字はげ)|M字の切れ込みがだんだん深くなっていく
- U型のパターン|おでこ全体が後退
- O型のパターン(つむじはげ)|生え際後退はゆるやかで、頭頂部が先に進行
- M型では進行スピードが左右非対称の場合がよくある(寝る姿勢との関係を示した研究がある)
ゆっくり進行するので、初期症状(はげ始め)には気づかない人が多い
AGAの基本症状は軟毛化です。初期には、もともとの生え際の近辺が軟毛化して毛が細くなっていきます。
ただし、AGAはゆっくりと進行するので、普通に生活していると生え際が後退し始めたことには気づかないのが通例です。多くの方が、少し進行してから(進行度ⅡやⅢになってから)後退を自覚します。
定期的に生え際を撮影して経過を観察していれば、軟毛化の始まりにいち早く気づけるかもしれません。
M型のパターン(M字はげ)|M字の切れ込みがだんだん深くなっていく
M型は最も典型的な進行パターンで、大半の方がこのパターンで進行します。
おでこの両端が先に後退して生え際がM字型になり、時間とともにM字の切れ込みが深くなっていきます。
生え際後退がある程度進行したところで、頭頂部(つむじ周り)も薄くなり始めることが多いです。さらに進行すると生え際の中央の密度が低下し、M字の真ん中がぼやけていきます。
最終的にどこまで進行するかは人によって異なります。前頭部から頭頂部にかけて全体的にはげる人もいれば、頭頂部は少し薄くなるだけでとどまる人もいます。
U型(C型)のパターン|おでこ全体が後退
U型はおでこの両端と中央が同じくらいのスピードで後退し、生え際が逆U字型になるパターンです。M型に比べてかなり少数派です。
M型が進行するとM字の中央も薄くなり、U字型になることがあります。AGAが最大限に進行し、前頭部から頭頂部にかけて全体的にはげるところまで行った場合、M型とU型の見た目は同じになります。
こうしたことから、前頭部が均等に後退するパターンを「C型」、前頭部と頭頂部の薄毛がつながった状態を「U型」と呼ぶ分類法もあります。
O型のパターン(つむじはげ)|生え際後退はゆるやかで、頭頂部が先に進行
主に頭頂部で薄毛が進行し、つむじ周辺から円状に薄毛が広がっていくパターンです。前頭部の後退はゆるやかで、あまりはっきりしたM字型・U字型にはなりません。
つむじはげについては、つむじはげの治し方と診断基準・原因を徹底解説で扱っています。
進行スピードが左右非対称の場合もある(寝る姿勢との関係を示した研究がある)
生え際後退のスピードが左右で少し異なり、生え際のラインが左右非対称になる場合があります。ただし、片方だけ後退して反対側はまったく後退しないというようなことは、AGAでは通常見られません。
左右非対称に進行する原因はまだよくわかっていませんが、寝る姿勢が一つの要因とする研究があります。
M字型の男性161人の「寝る姿勢」と「髪の分け方」を調査したところ、以下のような傾向が見られました。
- 右側を下にして横向きの姿勢で寝る習慣がある人は右側のほうが先に進行しやすく、左側を下にする習慣がある人はその反対になる
- 仰向けで寝る習慣がある人や、姿勢がバラバラの人は、明確な左右差が見られない
- 髪の分け方と生え際後退には関係性が見られない(「いつも右側で髪を分けている人は右側のほうが先に進行しやすい」というようなことはない)
いつも同じ側を下にして寝ていると、そちら側の頭皮が長時間圧迫されて血流が滞り、それが髪の成長に影響するのではないか、と研究者は推測しています。
他の生活習慣や遺伝の影響が今後の研究で分かってくるかもしれません。
生え際後退と勘違いしやすいケース
髪の生え方の個人差が初期のAGAと混同されたり、AGAと他の脱毛症が混同されたりするケースがあります。
- 勘違いケース① 実は正常で、気にしすぎ(生まれつきおでこが広め・M字気味なだけ)
- 勘違いケース② 生え際後退ではなく、急な抜け毛増加(休止期脱毛症・円形脱毛症)
- 勘違いケース③ 生え際後退ではなく、引っ張る髪型が原因の薄毛(牽引性脱毛症)

勘違いケース① 実は正常で、気にしすぎ(生まれつきおでこが広め・M字気味なだけ)
おでこの広さや生え際の形は個人差が大きく、他人との差を気にしすぎてAGAと勘違いしてしまうケースがあります。
とくに以下のようなケースで勘違いが起こりやすいです。A・B両方の特徴を持つ方もいます。
- (A) おでこが広めで生え際の位置が平均よりも高く、こめかみの生え際がやや斜め後ろ方向に伸びている
- (B) 生え際の中央がおでこのほうに突き出ている(いわゆる「富士額」)
もとからこうした生え際なのであれば、「後退」は起こっておらず、正常な個人差です。
どうしても他人との差が気になる方は、生え際付近が軟毛化しているかどうか(サイン③)、抜け毛に細い毛が混じっているかどうか(サイン④)をチェックしてみてください。これらが見られなければ、勘違いの可能性が高いです。
勘違いケース② 生え際後退ではなく、急な抜け毛増加(休止期脱毛症・円形脱毛症)
AGAでは生え際が少しずつ軟毛化していきますが、急に抜け毛が増えて生え際が薄くなる(はげる)脱毛症もあります。比較的よく見られるのは、休止期脱毛症と円形脱毛症です。
これらはとくに生え際がはげやすいということはなく、AGAのように少しずつ生え際が後退していくということもありません。たまたま生え際の位置で毛が抜けた場合に、生え際後退と勘違いされることがありますが、症状や経過を見れば、AGAとは明らかに違うことがわかります。治療法もまったく異なります。
| 症状・経過 | 原因 | |
|---|---|---|
| 休止期脱毛症 | ・頭のあちこちで抜け毛が急激に増え、髪が全体的に薄くなる ・右記の原因が発生してから数ヶ月後に発症し、長くても半年程度で治まることが多い ・原因が存続する限り再発する恐れがある | 以下の原因により髪の成長が急停止して、通常よりも早く生え替わりの時期に移行する ①重度の身体的ストレス(外科手術や出産など) ②重度の精神的ストレス ③栄養の欠乏(タンパク質・脂肪酸・亜鉛の欠乏など) ④全身性疾患(肝不全・腎不全・自己免疫疾患・甲状腺機能異常など) ⑤感染症(HIV・梅毒など) ⑥皮膚炎症(乾癬・脂漏性皮膚炎など) |
| 円形脱毛症 | ・頭髪の一部分が急にごっそりと抜け、ツルツルの頭皮が露出する ・円形・楕円形に抜けることが多いが、それ以外の場合もある ・一箇所だけ抜けて自然に治る人もいれば、複数箇所に脱毛が広がってなかなか治らない人もいる | 免疫システムが病原体などの外敵ではなく毛包組織を攻撃してしまう(背景には遺伝的体質があり、ウイルス感染、ワクチン接種、心身のストレスなどが引き金になることがある) |
参考:Telogen Effluvium: A Review of the Literature|National Library of Medicine
参考:円形脱毛症診療ガイドライン 2024|日本皮膚科学会
勘違いケース③ 生え際後退ではなく、引っ張る髪型が原因の薄毛(牽引性脱毛症)
牽引性(けんいんせい)脱毛症は、髪を強く引っ張る髪型を長期間続けることで発症する脱毛症です。
ポニーテールなど、おでこの生え際の頭皮を強く引っ張る髪型をしている人が牽引性脱毛症になった場合、AGAの生え際後退と似た症状が現れることがあります。
AGAと牽引性脱毛症では進行パターンが以下のように異なります。
- AGAでは生え際が頭のてっぺんに向かって徐々に後退していくが、牽引性脱毛症は髪型で引っ張られる部分にだけ発症
- AGAではおでこの中央は進行が遅い場合が多いが、牽引性脱毛症では強く引っ張られている部分はどこでも薄くなりやすい
- 牽引性脱毛症では生え際にフリンジ(房飾り)のように髪が少し残り、その後ろから薄くなっていることが多い
参考:Review of traction alopecia in the pediatric patient: Diagnosis, prevention, and management|Wiley
初期の牽引性脱毛症は引っ張る髪型をやめれば回復することが多いです。放置すると患部の毛包が破壊され、二度と毛が生えなくなる恐れがあります。
生え際後退の対策|AGA・M字はげの治し方
ここでは、AGAによる生え際後退の治療法をくわしく解説します。生まれつきの生え際を修正する方法についても簡単に紹介します。M字はげの治療については、M字はげの治し方と原因・診断基準を徹底解説でもまとめています。
- 放っておくと進行するので、フィナステリド/デュタステリドで進行を抑えるのが基本
- すでに薄くなった部分は、ミノキシジル外用薬で発毛と太さの改善を図る
- 早く治療を始めた人ほど治療効果が高い傾向がある
- 頭皮ケアやマッサージで改善するという十分な根拠はない
- 進行したM字はげには、自毛植毛で自分の頭皮を移植
- 生まれつきおでこが広め・M字気味の人は、自毛植毛や額縮小術で生え際を変更可能
放っておくと進行するので、フィナステリド/デュタステリドで進行を抑えるのが基本
AGAは自然に治ることはなく、放置すれば時間とともに進行します。今のところAGAの原因遺伝子そのものを治療する方法はなく、内服薬(飲み薬)で進行を抑えるのが基本の治療法となっています。
内服薬には以下の2種類があります。
- フィナステリド:5α還元酵素「Ⅱ型」の働きを阻害
- デュタステリド:5α還元酵素「Ⅰ型」「Ⅱ型」の働きを阻害
どちらも5α還元酵素の働きを阻害してDHTをできにくくする薬で、毛包がこれ以上萎縮するのを抑えます。
フィナステリドやデュタステリドはAGAの原因を体から取り除くわけではなく、5α還元酵素の邪魔をするだけです。服用をやめると再び5α還元酵素が活発化し、DHTが増えてAGAが進行します。
フィナステリドとデュタステリドの主な副作用には、性欲の低下(リビドー減退)、勃起機能の低下、射精障害などがあり、重大な副作用として肝機能障害も報告されています(どのくらいの割合で起こるかは分かっていません)。
どちらも女性に使う薬としては認められておらず、20歳未満での安全性も確かめられていません。フィナステリドでは、うつ病・うつ状態の人や、以前にかかったことがある人への注意も、薬の説明書(添付文書)に書かれています。また、どちらの薬も前立腺がんの検査に使うPSAという値を本来より低く出すため、検査を受けるときは、結果を正しく判断してもらえるよう服用していることを医師に伝える必要があります。
家族への注意もあります。割れたり砕けたりしたフィナステリドの錠剤は、妊娠中や妊娠している可能性のある女性、授乳中の女性が扱わないようにします。デュタステリドのカプセルから漏れた薬にも、女性や子どもは触れないようにし、触れたときはすぐに石けんと水で洗います。
参考:プロペシア錠 添付文書(PMDA電子添文)
参考:ザガーロカプセル 添付文書(PMDA電子添文)
すでに薄くなった部分は、ミノキシジル外用薬で発毛と太さの改善を図る
ミノキシジル外用薬(塗り薬)はフィナステリドやデュタステリドとは別の経路で毛包に働きかけ、以下の2つの効果を発揮します。
- 育毛効果:毛の成長期間を延ばし、より太く・長く成長するようにする
- 発毛効果:成長が止まった毛包や毛が抜けたままの毛包に対し、新しい毛への生え替わりを促す
フィナステリドやデュタステリドはAGAの進行を抑える薬のため、すでに薄くなった部分にミノキシジル外用薬を併用するかどうかは、医師が症状をみて判断します。
ミノキシジル外用薬では、かゆみ、赤み、皮むけ(落屑)、毛穴の炎症(毛包炎)、かぶれ(接触皮膚炎)、顔の毛が濃くなる(多毛)などの副作用が報告されています。
参考:男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン2017年版|日本皮膚科学会
早く治療を始めた人ほど治療効果が高い傾向がある
薄毛が軽いうちに治療を始めた人ほど、治療効果が高い傾向が報告されています。
日本人男性801名を対象にした観察研究があります。フィナステリドを5年間続けた効果を、治療を始めたときの年齢や薄毛の程度などから分析しています。効果が高かったのは、40歳未満で治療を始めた人と、薄毛の程度が軽かった人でした。
参考:男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン2017年版|日本皮膚科学会
頭皮ケアやマッサージ、食生活改善でAGAの薄毛が回復するという十分な根拠はない
以下のような自力でできる薄毛ケアがよく紹介されますが、医学的な根拠は乏しいです。
| ケアの方法 | 効くとされる理由 | 実際の効果 |
|---|---|---|
| シャンプーや頭皮ブラシで頭皮の汚れ・皮脂をこまめに落とす | 頭皮の汚れ・皮脂は毛穴を詰まらせ、薄毛の原因になるので、それを取り除く | 毛穴のつまりが薄毛の原因になることはなく、それを取り除いても薄毛は改善しない |
| 頭皮をやさしくマッサージする | 血行が促進されて、毛包に栄養が行き届くようになる | マッサージの血行促進効果はあったとしても一時的なもので、薄毛改善につながるという十分な根拠はない |
食事や睡眠などの生活習慣の改善も、薄毛ケアとしてよく紹介されます。喫煙や睡眠不足などは進行を早める要因になりえますが、生活習慣を見直せばAGAの進行を遅らせられるかまでは確かめられていません。また、すでに発生している薄毛を治す(毛を太くする・発毛させる)ことはできません。
進行したM字はげには、自毛植毛で自分の頭皮を移植
生え際後退が進行し、治療薬が効きにくくなってしまった場合でも、自毛植毛という手段があります。
自毛植毛では、後頭部などの薄毛になりにくい部位から自分の頭皮を採取し、小さく分けて薄毛部位に移植します。移植した頭皮が無事定着すれば、自然な頭皮と同じように働きます。
ただし、頭皮を採取した部分には傷跡が残ります。また、移植した部分以外の前頭部・頭頂部は薄毛になりやすいので、進行を抑えるためにフィナステリドやデュタステリドの服用が推奨されます。
手術の後には、腫れ、痛み、出血、感染、毛穴の炎症(毛包炎)、頭皮のしびれなどが起こることがあります。移植した毛がすべて定着するとも限りません。
参考:Hair Transplantation|StatPearls(NCBI Bookshelf)
生まれつきおでこが広め・M字気味の人は、自毛植毛や額縮小術で生え際を変更可能
生まれつきの生え際の修正も、自毛植毛で行えます。方法はAGAの場合と同じです。生え際をかなり自由にデザインできますが、うまくやらないと不自然になってしまいます。
額縮小術でも生え際を最大2〜3cmほど前に移動できます。生え際付近の皮膚を切除し、頭皮を前方に引っ張って縫い合わせます。自然な形にしやすい反面、自毛植毛よりも傷が目立ちやすいです。
額縮小術では、切開した部分のまわりの髪が抜ける(一時的なことも、戻らないこともある)、目立つ傷跡が残る、しびれが長く続く、血がたまる(血腫)といった合併症が報告されています。
生え際後退に関してよくある質問
最後に、生え際後退に関してよくある質問をいくつか取り上げて解説します。
- Q1.生え際が後退しているかどうかの目安(基準)は?
- Q2.生え際後退は予防できる?
- Q3.高校生や大学生でも生え際は後退する?
- Q4.女性も生え際が後退することがある?
まとめ|生え際後退の多くはAGA。気づいたら早めに医師に相談を
生え際後退はAGAの典型的な症状で、生え際の軟毛化が少しずつ進行している状態です。生え際周辺に細い毛が多数見られる場合、AGAの可能性が高いです。AGAでは抜け毛にも細い毛が混じるようになります。
AGAはゆっくり進行するので、数年程度経過しないと症状の変化に気づけないことが多いです。抜け毛が急に増えて短期間で髪が薄くなった場合、AGA以外の脱毛症の可能性が高いです。その場合や、円形に抜けている場合は、皮膚科で相談してください。
最近ではAGAのオンライン診療が普及し、治療に踏み出しやすくなっています。生え際後退が気になったら、早めに医師に相談してください。オンライン診療で相談できるクリニックは、AGAオンライン診療おすすめ10院で比べています。
※AGA治療や、生え際の形を整える手術は、公的医療保険の対象外となる自由診療です。費用は全額自己負担で、クリニックごとに異なります。


